技術経営ブログ

かつての研究開発の定石(その2)

2019年6月12日

技術ブログ

R&Dのリニアモデルは、優れた技術を生み出すためには、その上流に科学があることが不可欠であり、科学→技術の流れしかなく、その逆はあり得ないという認識の下、下記のプロセスでモノを作り出していくモデルである。

〈R&Dのリニアモデル〉

基礎研究(技術シーズを生み出す)→応用研究→開発→試作→生産

日本企業もR&Dのリニアモデルを重視し、製造業内に中央研究所が作られるようになったが、1960年代には、米国において、このR&Dのリニアモデルに対する疑問が湧き始めていたのである。大衆消費社会が未成熟であれば、市場のニーズは明確であり、技術シーズをベースにそのニーズを満たすことができる画期的な技術を開発し、市場に投入すれば勝手にモノが売れていった。生活必需品(テレビ、冷蔵庫、洗濯機のようないわゆる三種の神器)がちょうど全家庭に普及していく頃は実にこのリニアモデルが上手く回っていたのである。

しかし、時代が変わり、生活必需品がほぼ行き渡った1970年代において、市場ニーズが徐々に潜在化し、求めるレベルが高度化していった。しかし、その当時は、市場での具体的な顧客ニーズがまだ明確であった。つまり、「何が欲しい」と聞かれれば「〇〇が欲しい」というニーズが市場からはね返ってくる時代でもあった。生活必需品がほぼ行き渡った中で、その求めるニーズのレベルが高くなり、そのニーズが具体的な特性値(速度、容量、明るさ、効率等)を介して表現できた時代でもあった。企業はこの顧客の求める特性値のデータを出すために、研究に注力した。この特性値のデータを出すための研究所も、企業内の研究組織(中央研究所」が威力を発揮したことは勿論であった。ある意味において1970年~80年代は、そのリニアモデルに対する信奉が残っていた最後の時代であったのかもしれない。

20世紀も終わりに近づく頃になり21世紀に入る頃には、具体的な特性値のレベルが上がり切ってしまい、飽和状態に陥るようになってきた。これと同時に大衆消費社会が成熟していく中、「何が欲しい」と聞かれれば「〇〇が欲しい」というニーズが市場からはね返ってこなくなった。つまりニーズの潜在化が起きてしまったのである。また人々も、自分が一体何が欲しいのかが分からなくなってしまった。特性値のレベルが飽和状態になると、その後は価格競争に陥るだけであり、このフェーズにおいては中央研究所を上流としたリニアモデルの見直しが求められるようになってくる。21世紀に入り、新しいR&Dのモデルが模索されるようになった。

次回に続く

参考文献 宮原諄二 「白い光」を創る 社会の技術の革新史 東京大学出版会

 

 

 

 

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