技術経営ブログ

ランチェスターの法則で考える特許争訟

2018年12月5日

技術ブログ

 ランチェスターの法則という軍事戦略理論がある。第一次世界大戦のときにイギリス人の航空工学の研究者であるランチェスターが考え出した理論であり、戦闘力=武器効率×兵力数で決まるというものである。このランチェスターの法則は、戦争のみならず企業間の競争、或いは様々な争訟に勝ち残るために、現在においても様々な場面で応用されている。

 知財の世界において相手と真正面から戦わなければならない場面は、特許侵害訴訟、つまり特許争訟である。この特許争訟は、相手と交渉する余地がなくなり、致し方なく訴訟を起こさざるを得ない場合であることは十分に承知のことであるが、実際に戦わざるを得ないケースになっても、いきなり相手にケンカを仕掛けるのではなく、事前に戦略策定を十分に行うのが普通である。特許争訟に限らず、相手と戦う場合における戦略策定のプロセスは以下である。

 1)情報の収集と分析
 2)相手の取りえる手段を全て列挙
 3)自分の取りえる手段を全て列挙
 4)2)、3)において取りえる手段を組み合わせ、戦いをシミュレーション
 5)シミュレーションからベストの手段を紡ぎだす

 ここで4)のシミュレーションであるが、特許争訟において使うシミュレーションツールは、モンテカルロ法、ゲーム理論、金融工学を駆使したメソッド等、様々なものが考えられるが、ランチェスター法則を特許争訟のシミュレーションに利用できるか考えてみたい。特許争訟は、離れたところから互いにマシンガンで撃ちあう遠隔戦ではなく、狭い範囲で一対一の接近戦を行う性質に近いため、上述したランチェスターの第一法則(戦闘力=武器効率×兵力数)が成立すると仮定する。
 このとき、兵力数が特許の数、武器効率が特許の質と考える。特許の質をどのように考えるかはケースバイケースであるが、私見ではあるが、①特許の広さ、②特許を構成する技術の注目度(社会的ニーズ)、③特許の強靭性(無効になりにくさ)から構成されるものと仮定する。

 A社とB社が特許争訟で戦うときに、A社は特許数20件、特許の質平均が2点(5点満点としたとき)とする。これに対して、B社は特許数4件で特許の質平均が5点とする。戦闘力は、A社が40点(=20件×2)、B社が20点(=4件×5点)となり、A社が圧勝となる。しかし、本当にそのように予想できるであろうか。特許は相手側の権利範囲から少しでも外れていれば非侵害である。狭い権利を20件持っているA社よりも、社会的ニーズを広く抑えた特許4件を持っているB社の方が、実際に戦った場合には強い気がする。

 一方、「なぜ日本の知財は儲からない」によれば、特許の数がモノを言う場合があり、米国の特許訴訟では、20件もの特許を掲げて訴えれば、これをすべて回避するのは困難だという印象を相手に与え、しかも20件もの特許をすべて無効する労力や費用は相当なものであり、ほぼ戦うことなく不戦勝を勝ち取ることができるとのことである。件数が相手に与える心理的なプレッシャーも相当なものであろう。その意味では、ランチェスター法則からA社有利になることも決して否定はできない。

 何れにしても、ランチェスターの法則に基づく特許争訟力(=特許の数×特許の質)で本当の意味でシミュレーションを行うためには、単純に両者間の掛け算で決められるものではなく、少なくとも上述した要因を式に盛り込んで検証をする必要があるということだ。

 

お問い合わせ・ご依頼は
お気軽にご連絡ください。

TEL

受付時間/平日9:20~17:20